ウェルベックの小説
もう20年以上も前のことですが,フランシス・ポンジュという詩人の解説書を書いたセルジュ・コステールが,お昼の書評番組で絶賛していたのが『個人的闘争領域の拡大』という本でした。他の評者が辛口のコメントを連発する中,コステールが孤軍奮闘してこの本を擁護していたのを覚えています。
この本で小説家として本格的にデビューしたミシェル・ウェルベックは,今やフランス国内はもちろん,フランス語圏の作家としても国際的に最も有名な作家になってしまいました。デビュー当時誰が予想し得たでしょうか。
おそらく,ウェルベックがこれほどまで大きな名声を獲得した理由は,その分かりやすさにあるのだと思います。つまり,私たち生きている時代はどのような時代なのか,その具体的なイメージを小説というメディアを通じて極めて具体的に示したからだと思われます。そしてそうすることによって,誰もが時代遅れのメディアとして,歴史の遺物として葬ろうそしていた小説の潜在的な力を,再び明るみに出しました。
革命という大きな夢が頓挫した,混沌とした19世紀半ばに小説が時代を照らしたように,グローバル化のユートピアが頓挫した今日(フランスシス・フクヤマさんは,今どうしていらっしゃるのでしょうか?),ウェルベックの作品こそが私たちが進もうとしている道(進むべき道ではないのが辛いところですが...)を冷徹に示しているのかもしれません。
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